『久保はてな作品集』プレ2
「Y高文芸部2年時の活動」
文芸部2年目の活動も引き続き[課題→実作→合評]の実践。部員は顧問の様々な課題に よく応えてくれました。
中でも校外に出たり、夏休みに合宿を行うなどブンゲーブらしからぬ活動満載でした(^_^;)。
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(^_^)本日の狂短歌(^_^)
○ 青春を同時進行にて描く この難題に誰が挑戦?
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***** 「続狂短歌人生論」 *****
【「久保はてな作品集」 プレ2 Y高文芸部2年時の活動 】
2年目に設定した課題は以下のとおり(末尾は実施月)。
[2年時(98年度)]
1 自由作 4月
2「公園」を描く(男女ペアになって学校近くの公園を散策)5月
3「丸木美術館」を描く(埼玉県松山市「丸木美術館」訪問)6月
4 夏休み合宿――連作小説をつくる 7月
5「さみしさ」をテーマに小説を書く(文化祭文芸誌統一テーマ)
6「修学旅行(北海道)」を描く 10月
7 夏合宿の連作小説を「自作」として完成させる 11月
8「変身譚―花びらかまきり―」(花びらカマキリのビデオを参考に変身譚をつくる)
99年1月~3月
4月の「自由作」はいつも課題ばかりでは、とガス抜きのつもりで設定した。
自作のある部員はもちろんそれを提出した。意外だったのはこのときが初めてという部員も何人かいたこと。平均するとひと月一度の課題だったから、それをこなすだけであっぷあっぷだったようだ。
それから2「公園を描く」、3「丸木美術館を描く」、4夏休み合宿は校外活動なので校長の許可を得た。3と4はもちろん保護者に趣意書を出して了解を求めた。埼玉県松山市にある丸木美術館には丸木夫妻の「原爆の図」がある。
Y東西高校の修学旅行(9月末)は1年時生徒へのアンケートによって最多の方面になる。だいたい北海道か中国の広島・岡山、九州北部の福岡、佐賀、長崎が多かった。広島、長崎の場合は必ず原爆資料館を見学する。
この学年の目的地は北海道になったので、原爆資料館に行くことはほぼない。在学中一度は原爆について感じ、考えてほしいと思って丸木美術館見学を取り入れた。
そして、98年の文化祭冊子統一テーマは5月に「さみしさ」と決めた。
このテーマを久保はてな君が詩にしたので「百八煩悩」に掲載した。
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さみしさ 久保はてな
世の中は いじめられたくない子どもたちであふれています でも
いじめられたくない子どもが なぜ子どもをいじめるのでしょう
だから世の中はいじめられたくないのに いじめる子どもたちであふれています
世の中は やさしさを求める やさしい人たちであふれています でも
やさしさを求める人が なぜ人にやさしくなれないのでしょう
だから世の中は やさしさを求めるのに やさしくない人たちであふれています
世の中は 争いごとが嫌いな人たちであふれています でも
争いごとが嫌いな人たちが 自分の利益に関わると なぜ争うのでしょう
国の利益に関わると なぜ戦争を起こすのでしょう
だから世の中は 争いごとが嫌いなのに 争う人と国であふれています
世の中は 自分のさみしさをわかってほしいと思う人たちであふれています でも
お母さんは 子どもは なぜお父さんのさみしさをわかってあげないのでしょう
お父さんは 子どもは なぜお母さんのさみしさをわかってあげないのでしょう
お父さんは お母さんは なぜ子どものさみしさをわかってあげないのでしょう
だから世の中は さみしさをわかってほしいと思うのに
さみしさをわかってあげられない
さみしーい人たちであふれています
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余談ながら今年(2025年)に公表された小中高、特別支援学校におけるいじめの認知件数は約73万3千件。うち重大事態件数1306件。
ほぼ30年経った今もこのメッセージが掲載できる(しなければならない)ことは悲しい。
さらに小中の不登校児童生徒34万6千人、高校6万9千人。
彼らは「なぜこれをほったらかしにするの?」と叫んでいるに違いない。
子どもが流す涙はいとも軽く扱われている……。
私は97年98年に決めたテーマ「叫び」と「さみしさ」は今も変わらぬテーマだなと「Y高文芸部物語」を書きながら感じた。
閑話休題。
前年文化祭から1年を経て部員の構想力、地の文の表現力は着実に進化していた。
98年の冊子『百八煩悩』は県の「高校文芸誌コンクール」で最優秀にあたる「県教育長賞」を受賞した。これは[課題→実作→合評]活動の成果だと思ったものだ。
私は文芸部2年目にあたって「あること」を意識した。
それは彼らに部活動を通じて「青春」を体感させたいということ。
他クラブならいざ知らず、「ブンゲーブで? 一体どうやって?」と思われるかもしれない。
もう一つは「同時進行の青春小説」を書くこと。
この2点の詳細は後日として2年時の課題――以下2346が青春を体感するきっかけになってほしいとの思いで設定した企画である。
いずれも部屋にこもってちまちま書く文章(小説)ではなく、外に出て二人、もしくはみなで体験する。それを描いて青春小説をつくろうと。
2「公園」を描く(男女ペアになって学校近くの公園を散策) 5月
3「丸木美術館」を描く(埼玉県松山市「丸木美術館」訪問) 6月
4 夏休み合宿――連作小説をつくる 7月
6「修学旅行(北海道)」を描く 9月
11名の部員は女子が6名、男子が5名。
彼らはこの企画に顧問のそのような思いが隠されているとは思いもしなかっただろう。
私は部員がこれらの体験を「私小説」として描くことを期待した。同時進行の青春小説は私小説にならざるを得ないからだ。
そして、案の定〈青春の海の中で溺れたに違いない〉部員たちから、体験をそのまま描く作品は現れなかった。素材として取り込んだり、感想が書かれることはあっても、小説にすると現実世界から離れた。
ただ一人だけこの難題に挑戦した部員がいる。
それが久保はてな君だ。
次回より久保はてな君の実作を紹介するが、今号ではブンゲーブらしからぬ「夏休みの合宿」について触れておく。
文芸部が「合宿」なんて前代未聞のことかもしれない。
運動系の部活はサッカーや野球などチームワークを必要とするところは合宿できる。文系では吹奏楽なども合宿して朝から夜まで練習する意味がある。通学では全員そろわないことが多いからだ。
だが、ひとりひとりただ書くだけの文芸部はチームワークと無縁だから合宿の必要がない。
そこで考案したのが連作小説である。かつて昭和の同人誌などで行われていた。
校長にかけあって「ワープロ教室で朝から夕方まで連作小説をやるので合宿した方がいい」として認めさせた。
小説執筆はワープロ室で朝から夕方までの活動。だから、合宿しなくてもできる。(教師以外の)読者は「よくまー認めてくれたなあ」と思われるかもしれない。
だが、他の部活にしても(体育館以外の)活動は朝から夕方までであって夜はできない。必要かどうかで言うと、運動系でも宿泊しなくていいクラブがある。
実は高校の合宿というのは夏休みの集中練習以上に「友情を体感、獲得する」意味合いがある。
放課後の練習では部員同士が家族や進路など深い悩みを打ち明けることは少ない。だが、一晩泊まれば、いろいろなことを語り合える。「実は好きになった人がいる」など思わぬ告白も出る。話が弾めば徹夜になることだってある。
意気投合したり、誰にも言えなかった悩みを打ち明けることで、やっと親友と呼べる人ができた――こうした体験は自宅以外の所で泊まるから得られるものであり、合宿最大の効能と言える。
校長は当然このことを知っている。だから、私が「ブンゲーブでも合宿したい」と申し出ると、「必要ないだろ」なんてことは言わない。二つ返事で「どうぞどうぞ」てなもんである(^_^)。
幸いなことにY高の合宿はほぼ学校近くの国民生活センターで行われていた。学校まで歩いて来られるので、ワープロ室で執筆活動ができた。
夏合宿の件を部員の作品から抜粋する。
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「連作小説」とは、夏休みの三日間、朝から夕方まで集中的に行われた小説制作だ。学校に部員全員が集まり、リレー小説を作った。部員十名全員参加して学校近くの国民生活センターに2泊した(朝昼夕の3食付き)。
そのときS先生が出した課題が例のごとく風変わりなものだった。「はちゃめちゃ系学校小説」だの「タイムトリップ系SF小説」、「ゲーム系冒険小説」、「純情コミック系恋愛小説」などとテーマが設定され、部員はくじ引きでそれぞれ分担を決めた。
まず各自が合宿初日までに冒頭1ページ分を書いておく。そして、前の部員が書いた後に続けてローテーションしながら、次の人が書き継いでいった。持ち時間は一人一時間半。結局完成まで三日かかった。
ワープロ室にはエアコンがない。暑かったし、決められた時間の中で、ストーリーが崩れないように書き継いでいくのはとても大変だった。中には話の流れを全く無視する者もいて、顰蹙どころか非難ごうごうの時さえあった。
小説のラストは冒頭部の作者が再度分担できるようにローテーションを組んだ。途中経過は見ない約束だったので、最終的に自分に回ってきた作品は思いもかけない方向に進んでいることがあった。
するとまたそこでも最初の作者から非難の雨あられ。しかし、この企画はすごく盛り上がったし、結構みんな楽しみながらやっていた(^_^)。
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合宿は私の狙いでもある青春の体感場所。部員は夜男女混ざって語ることもあったようだ。もちろん午後10時までは許されている。だが、それを超えれば、不本意ながら叱りつけざるを得なかった。
宿泊棟は他の部活や一般の人も泊まっている。夕食後は各自部屋で過ごすことにして就寝タイムの午後10時以降は他の部屋を訪ねてはいけない――これは全体のルールだった。 だが、彼らはその後もひそかに集まっていろいろ語り合った。思わず声が大きくなれば、運動系の部活生徒が眠る部屋に漏れる。
当然のように顧問の私のところに「注意してくれ」と苦情が来る。私は出かけて行って「静かにしろ」ときつく注意した。
これも青春あるある。自分(たち)の世界に浸れば、周囲への配慮を忘れる。私は内心「青春してるな」と思った(^.^)。だが、彼らは叱責する私を「理解してくれない大人」と見ただろう。
若者の自由を認めない大人の登場もよくある青春ドラマ。私はそれを演じたってわけだ(^.^)。
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
後記:次号より久保はてな君の実作を紹介します。が、困ったことに当時のフロッピーディスクを読み込むことができず、特に97年最初のころの課題はほんとに埋もれてしまいました。
よって、残っていた作品の紹介となります。もっとも、長編もあるので結構な量です。


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